食肉の禁忌

 ヒンドゥーでは牛が、イスラムでは豚が、理由は真逆だが食べてはいけないモノとして規定されている。
 こうした宗教上の禁忌は全く意味が無い訳ではない。
 牧畜は狩猟採集生活から段階的な発展を経て成立した。
 最初は粗放的な、行き当たりばったりの狩猟であったが、それがいつしか統制された狩猟となり、群れの追跡へと進む。こうなると必要以上に殺し過ぎて種を絶滅させてしまう事にもなった。
 この頃には特定の動物を神として崇め、狩猟に制限を加えるような知恵も生まれた。これはトーテミズムと呼ばれ、食品における最初の禁忌であっただろう。
 恐らく農業の発展と並行して、粗放的な群れの囲い込みから集約的な囲い込みへと進み、大規模な近代牧畜へと至る。
 初期の家畜は人が食べない穀物を飼料として与えられ、そこから肉を獲ることで食糧を大幅に拡大した。そのうちに家畜用として集められた穀物が食用として利用されるようになり、また人間と食糧が競合する豚のような家畜も飼われるようになった。
 豚が嫌われるのはこうした飼料の問題に加えて、豚を介した疫病の存在が原因であろう。家畜というのは食肉として労働力としての利用価値が有るが、一方で疫病を培養する温床にもなる。恐らく食肉に対する禁忌の発生には経験が少なからず影響を与えているのだろう。